最新号 2023年4月号

[pagina străină]

旅＆文化

人口80億「減る中国」「増えるナイジェリア」をどう撮った？

抽象的な概念を視覚化した、ナショジオの写真家による4月号特集撮影裏

世界の人口は増え続け、ついに2022年11月に80億人を突破した。しかし、近い将来この流れは大きく変わると予測されている。（ILLUSTRATION BY JUSTIN METZ）

［画像のクリックで別ページへ］

　2022年11月、世界の人口は80億人を突破した。科学の進歩により子どもの死亡率は大きく下がり、平均寿命は延びている。

　しかし科学者たちは、今世紀中に世界の人口は減少に転じると予測している。とはいえ、どこの国も一様に減るわけではない。他よりも早く人口が減る国もあれば、逆に人口が増えている国もある。そんな正反対の現実を最もよく反映している2つの国が、中国とナイジェリアだ。

　人口の変化は抽象的な概念であり、視覚的に表現するのは難しい。その課題を任されたのは、写真家のジャスティン・ジン氏とヤガゼ・エメジ氏だった。ナショナル ジオグラフィックは、4月号の特集記事のため、人口変化が中国とナイジェリアでそれぞれどのような影響を与えているかを写真でとらえるよう2人に依頼した。

　その取材について、またこの変化を直接目にして何を思ったのかを聞いてみた。

中国

「人口爆発」と言えば真っ先に頭に浮かぶのが、世界最大の人口を抱える中国だ。しかし、長らく続いてきたその状況が変わる日は近い。中国の人口は縮小に向かい、世界一の座をインドに明け渡そうとしている。

　香港で生まれ、現在はベルギーの首都ブリュッセルに住む写真家のジン氏は、1990年代に北京で特派員として働き始めて以来、その変化を目の当たりにしてきた。

　人口が多すぎることを問題視していた中国政府は、1978年に一人っ子政策を導入した。急激な人口増加を抑えるために、子どもの数は1世帯につき1人までという制限を設けたのだ。

　この政策は2016年に廃止されたが、一人っ子が当たり前の世の中で育ってきた現役世代の意識がそう簡単に変わることはなかった。政策がなくても子どもを増やそうと思う家庭は少なく、これが中国の人口減少危機の主な要因になっていると、ジン氏は指摘する。

特集ギャラリー：80億人の地球 「減る中国」　写真10点（写真クリックでギャラリーページへ）

喜びに包まれて
中国伝統医学では、出産した母親が休養して体力を回復させる「坐月子（ズオユエズ）」と呼ばれる風習があり、この杭州の産後ケアセンターでは、母親の代わりにスタッフが新生児の世話をしてくれる。中国では、子育て費用が高いことが人口減少の主な要因になっている。（PHOTOGRAPH BY JUSTIN JIN）

［画像のクリックで別ページへ］

　中国の産児制限の歴史を象徴するような家族を探すのは、簡単ではなかった。しかしジン氏は、まさに「おあつらえ向き」の老夫婦にたどり着いた。一人っ子政策が導入される前に、夫婦は3人の子どもを産んだ。その後一人っ子政策が始まったため、子どもたちはそれぞれ1人ずつしか子どもを産むことができなかった。そして、その3人の孫のなかで子どもを持とうと決めたのは1人だけだった。現在、この老夫婦にはひ孫が1人しかいない。

「家族のピラミッドは下に行けば行くほど広がっていくと思われていたのですが、実際には先細りしていき、最後に残った子孫は1人だけということになってしまいました」とジン氏は言う。

次ページ：暗い部分だけでなく喜びも

おすすめ関連書籍

2023年4月号

総力特集 80億人の地球：爆発する世界の人口／増えるナイジェリア／減る中国／超高齢社会の日本／季節と生物のリズム

この半世紀で世界人口は2倍に増えましたが、今後100年で人口はピークに達し、減少する可能性もあるといいます。総力特集「80億人の地球」では、人口が急増するナイジェリアと、減り始めた中国の現状をお伝えします。「超高齢社会の日本」では世界が注目する日本の高齢化対策についてレポートします